第93章

田中尚哉は奥歯を噛みしめ、視線を大島莉理へ縫い付けたまま、唐突に手を伸ばして彼女の手首を掴んだ。

「今すぐ、俺と家に帰れ」

「……怖くなったの?」

大島莉理は顎を上げて田中尚哉を見上げると、片手でそっと彼の頬を撫でた。

田中尚哉は掠れた声で繰り返す。

「……帰るぞ」

「……っ!」

ぱぁん、と乾いた音が病室に響いた。

大島莉理の平手が田中尚哉の頬を打ち、彼は顔を横に持っていかれる。白い肌に、じわりと赤い痕が浮かび上がっていく。鋭く締まった顎のライン。だが彼は、一言も発しなかった。

――ずっと、こうしたかった。

大島莉理は、この日をどれだけ待ち続けたことか。頬を打ち抜いた瞬間...

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